君をひたすら傷つけて
「うん。予約してないけど中に席が空いていたらラッキーというのじゃダメかな?この店の料理はとても美味しいよ。いつものビストロだったら確実に食事は出来るけど今日の雅はあまりにも可愛いからみんなに見せたいくらいだ。それに会わせたい人もいるし」

 アルベールは店のドアを潜り受付の方に真っ直ぐと歩いていく。アルベールはこの店に来たことあるような口ぶりで平然としていた。アルベールくらいのモデルともなると社会的に地位もあるので、このような場所にも簡単に入れるのだろうかもしれない。

 そんなことを思いながら、その後ろを私もついて歩いていたけど、ドアの中に入った瞬間、そのまま後ろを向いて帰りたくなった。木製のドアの中は外の世界とは違う緩やかに時間の流れる空間がある。微かに耳に届くのは音源ではない。一般人の私でも分かる様な生の弦楽器による演奏でバイオリンとかだけではない。

 複雑な音色が耳に届き、床には真紅の絨毯が敷き詰められ、気を付けて歩かないと転んでしまいそうなくらいに柔らかい。天井は高く、アンティークのような青銅色をしたシャンデリアが煌々と光と零している。見上げれば眩しいけど天井の高い場所にあるからか前を見ていると淡い光に包まれる穏やかな空間を演出していた。

 リズが用意してくれた有名なデザイナーの可愛らしいワンピースを着ているとはいえ、場違いなのではないかと思った。着ている服ではなく私には敷居が高過ぎる。シルクのイブニングドレスを着ないといけないのではないかと思うくらいの格式の重みを感じた。
 
 私の胸中を知らないアルベールは綺麗な微笑みを浮かべている。
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