君をひたすら傷つけて
 目の前にいるアルベールは真剣な表情を私に向けている。背中に月の光を背負い、眩いほどの輝きを放っている。それは姿形の美しさではなく、アルベールの中から溢れる美しさを見ているようだった。彼の魅力はその優しさと思いやりだと思う。

 出会ってから今までのことがフッと頭の中に浮かぶ。優しく思いやりに溢れ、仕事にはストイックで真摯に向かう。その後ろ姿を私はずっと見つめていた。

「雅。本当に嬉しいよ」

 掠れた優しい声が聞こえたかと思うと、緊張に包まれる私にアルベールはその逞しい両手を伸ばし、自分の胸にギュッと抱き寄せた。ふわっと抱き寄せられたことはあった。でも、こんなに胸が苦しくなるほどギュッと抱き寄せられるのは初めてだった。ドキドキと激しく鳴り響くのは私ではなくアルベールの方だった。私のドキドキよりも激しく鳴り響くのを聞きながら私は幸せだと思った。

「キスしてもいい?」

 そんなこと聞かなくていいのにと思うけど誰よりも優しいから、自分の気持ちよりも私の気持ちを優先してくれる。静かに見つめられる揺れる瞳が眩くて…静かに目を閉じた。

 私を心配するかのように唇を重ねると唇を離すのが惜しいかのように何度も繰り返される。薄い唇は温かかった。抱きしめられた腕の力は苦しくない様に緩められてはいるけど逃がさない様にしているのは分かった。

「…アルベール」

 そっと唇を離した間に私が声を零すと、アルベールはハッとした顔をする。そして、そっと視線を外した。

「ごめん。雅」
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