君をひたすら傷つけて
「なんで謝るの?」

「自分でも驚くくらいにキスをし過ぎたから。嫌がられたら嫌だから」

「そんなことないわ。ただ、ドキドキした」

「多分、俺の方がもっとドキドキしてる。雅、もう遅いから早く入らないと」

「うん。じゃ、アルベール。おやすみなさい」

「おやすみ」

 私はアパルトマンに入ると一気に階段を駆け上がった。そして、ドアを開けて自分の気持ちは落ちていく。今日はリズが仕事で帰って来ない日だった。一人で部屋の明かりを付けると、三人で暮らした部屋は広く感じた。アルベールとのキスはとっても優しいけど、どこか私の心に影を落としている。

「リズに会いたいな」

 そんな心の呟きが漏れてしまう。リズはこれからもっと仕事が忙しくなる。そんなことは分かっているのに今日は一緒に居て欲しかった。私の歩き出した道が間違いではないと言って欲しかった。

 リビングから続く私の部屋に入ると真っ暗な部屋を窓から差し込んでくる。蒼い月の光が微かに部屋の中を映していた。見慣れているはずなのに、今日は一段と寂しく感じるのは何故だろう。キスしたことを後悔はしてない。それなのに胸の奥に微かな痛みを感じた。

 電気もつけずに中に入ると部屋の片隅に置いてある鏡が私の姿を映していた。仕事から帰ったままの姿の私は少し髪が乱れていて、化粧も落ちているので頬の赤みもない。それなのに、唇だけが赤く映っているように見える。口紅も落ちているはずなのに月明かりで部屋の中にいる私の姿でさえも蒼白くそめているのに唇だけが赤い。

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