君をひたすら傷つけて
 後部座席に置かれた荷物は持ったよりも大きくなっていた。アルベールの部屋に料理をする道具や調味料があるとは限らない。最低限の調味料を持って来たら荷物が大きくなっただけだった。塩や砂糖はあると思うけど、それ以外の調味料の有無を聞いて夜けばよかったと後悔した。

「調味料を持ってきたの。でも、食材は今から買うつもりだからマルシェに寄っていい?」

「調味料も一緒に買えばよかったのに」

「でも、アルベールは料理しないでしょ。そうしたら買っても無駄になる」

「買ってよかったのに。雅がこれからも作りに来てくれたらいいだけだし」

「そうね」

「でも、今日はせっかく雅が持って来てくれた調味料を使って。また来る時に買ったらいいよね」

「うん」

「今日は何時まで大丈夫?」

 アルベールは何の意図もなく言っているのは分かる。でも、さっきまでのリズの言葉が過る。『帰宅禁止』と言われた意味もわかっている。でも、どう言っていいか分からなかった。

「特に時間は大丈夫」

「それなら急がなくていいね」

 私の持ってきた大きな荷物の中には調味料だけでなく、もしもの時に備えてのお泊りの道具も入っている。それはリズに持たされたものだった。リズはアルベールとの恋を後押ししているわけではなく、私が過去から少しでも前に進めることを後押ししていた。
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