君をひたすら傷つけて
「それなら先に不動産屋に連絡しないといけないな。雅。契約書見せて」

 お兄ちゃんは私の手から不動産屋の地図と電話番号の書いた紙を手に取り、携帯電話を取り出すとテキパキと段取りを付けていく。

『では、今から一時間半後にマンションの前で』

 そんな声を最後にお兄ちゃんが電話を終わらせた。

 不動産屋の社員とマンションの前で待ち合わせ。その引き渡しにお兄ちゃんも立ち会うとのことだった。一人でも大丈夫だと言いたかったけど日本を離れた時はまだ大学生だったので、お兄ちゃんが一緒にいてくれるということはありがたかった。

「お兄ちゃんありがとう」
「女の子が一人では何かあったら困るからな。さ、急がないと遅くなる」

 空港の駐車場に止めてあったお兄ちゃんの車は初めて見るものだった。白のセダンの車はお兄ちゃんらしく中も綺麗に整理されている。お兄ちゃんが助手席に置いてあった書類の入ったケースを後ろに置くと私はそこに座った。

「動かすぞ」
「うん」

 お兄ちゃんの運転する車の助手席に座り、私はマンションまでの道を行く。この車に乗るのはもちろん初めてでこういうところにも時間の流れを感じた。窓の外を見ながら、パリとの街並みの違いに愕然とする。都心に向かうほど高いビルが立ち並んでいた。

「こんなにビルが多かったかな?」
「そんなに変わってないように思うけど、いつも見慣れているからかな。雅。疲れているなら寝てていいから」
「うん。でも、眠くはないかな」

「時差があるのに?」
「うん。昨日遅く寝たから」

 不意にアルベールのことを思い出す。夕日のオレンジに染められている私は顔を染めたのをお兄ちゃんに気付かれてはないと思う。
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