君をひたすら傷つけて
少しの渋滞に巻き込まれながらも目的地に向かって確実に進んでいく。お兄ちゃんの到着予定時間にちょうど着きそうだった。一人だったら、地下鉄に乗って、電車に乗って…。スーツケースを抱えどうなっただろう。

 前に東京に住んでいたとはいえ、今度の住む場所は今まで全く住んだこともない場所だったし、不動産屋への地図だけが頼りで不安な時間を過ごさないといけなかったかもしれないけどお兄ちゃんがいれば安心だった。

「そろそろ着く」

 お兄ちゃんの宣言通り、写真で見たマンションが見えてきた。そして、そのマンションの前にはスーツを着た男の人がいる。

 お兄ちゃんはマンションの前で私を降ろすかと思ったけどマンションの前を通りすぎ、横にあるコインパーキングに車を停めた。車を降りると、私の荷物を下ろすことなくマンションの前に歩いていく。

 送ってくれるだけではなかったようだった。
不動産屋の人はお兄ちゃんの姿を見て、少し背を伸ばしたような気がした。

「藤堂さんですか?」
「そうです。鍵を頂けますか?」

 お兄ちゃんは平然とそう答えた。不動産屋の人は私とお兄ちゃんの関係をどう思ったのか分からないけど、手元から鍵を渡すとニッコリと笑った。

「部屋まで案内します」

 不動産屋の人は安心したような顔をしてマンションの中に一緒に入ってくる。そして、エレベーターの中に乗ると穏やかな声を響かせた。

「かなりいいお部屋だと思います」
< 498 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop