君をひたすら傷つけて
エマは自分の名刺を取り出すと篠崎さんに手渡した。篠崎さんのオーラに惑わされない鋭い視線で見つめるエマに商魂の逞しさを感じた。スタイリストとして独立したい私は今のエマの全てが手本になる。この仕事を一生続けたいと思ったから大学を休学してフランスに残った。

「EMA.J Co.,Ltd の代表のエマ・ジョンソンです。よろしくお願いします」
 
 目の前にいる篠崎さんもエマを見て動揺の欠片もない。丁寧にその差し出されたエマの手を優しく握ると篠崎さんも微笑みで返す。エマが篠崎さんのオーラに動じないように篠崎さんもエマの美しさに動じた様子も見えなかった。

「こちらこそ。篠崎海と言います。よろしくお願いします」

「篠崎さんの活躍は伺っております。もし、これからご縁がありましたらよろしくお願いします」

「じゃあ、すみませんが、挨拶が済んでからで構いませんので雅さんをお借り出来ないでしょうか?」

 エマの言葉に篠崎さんはニッコリと笑うと驚くようなことを言い放った。それは私もエマも想像してないことだった。私とエマは今からこの事務所に面会のアポを取っていてエマの通訳をしないといけない。挨拶とはいえ、疎かに出来ない。

「それは仕事としてですか?」

「違います。でも、雅さんしか出来ないことをお願いしたいのです」

「わかりました。それでは挨拶は私一人で行きますので、このまま雅を連れて行って貰って大丈夫です」

 エマは即答だった。どこに行くのかも何をさせるのかも聞かないし、それに私の意思は聞かれもしない。少しの憤りを感じながらエマを見ると静かに優しい微笑みを浮かべていた。

「雅。篠崎さんとの用事が終わったら連絡して。今日はもういいから」
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