君をひたすら傷つけて
「でも、エマ」

「でもじゃないわ。頼みがあるというのなら聞いてあげるのもいいでしょ」

 確かにリズのアシスタントをしている時はモデルや俳優から用事を頼まれるとコーヒーの一杯からでも買いに行った。重い荷物も持ったし走り回ったこともある。でも、それは仕事だからであって、篠崎さんの用事は仕事じゃない。

「わかりました。終ったら連絡します」

 断ろうと一瞬思ったけど、断らなかったのはお兄ちゃんの顔が頭に過ったからだった。お兄ちゃんがあんなに必死になってマネージメントをしている篠崎海という俳優に興味がある。その興味が勝っただけのことだった。

 私が頷くと、篠崎さんは嬉しそうな表情を浮かべていた。その表情は素直な心の奥まで吐露してしまうようだった。

「それでは時間もありますので、失礼します」

 そういうとエマはアポの取ってある部屋に入るとその扉を閉めた。たった一度しか会ったことのない人と一緒に出掛けるというのに躊躇しないわけはない。

「じゃ、行きましょうか?」
「どこにですか?」

「実は高取の誕生日がもうすぐです。一緒にプレゼントを選んで貰えますか」

 私が誘われた理由がお兄ちゃんの誕生日プレゼントだとは思いもしなかった。お兄ちゃんとは長い付き合いになるのに誕生日なんか知らなかった。

「高取さんの誕生日は何時ですか?」

「七月八日です。何か喜んでくれるものをと思ったけど中々思い浮かばなくて今からオフなんで買い物でも行こうかと思っていたので、雅さんに会えてよかったです」

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