君をひたすら傷つけて
「高取に恨まれたくないのは本当。でも、高取は休みを取って、雅さんを誘うと思うよ」

「一応、空けておきますが」

「絶対だよ」

 その後も篠崎さんは優しく話しかけてくれ、事務所に着くまでずっと会話を続いていた。

 私と篠崎さんの共通の話題と言えば『お兄ちゃん』のことしかないけど、十分に事務所まで話は尽きなかった。篠崎さんはお兄ちゃんのことを大事に思ってくれていて信頼もしている。私はお兄ちゃんの傍に真摯で優しい人がいることが嬉しかった。

 私は安心してフランスに帰れると思った。今日、篠崎さんと話が出来てよかったと思う。お兄ちゃんの傍に篠崎さんが居てくれてよかった。

「ありがとうございます」
「ん?何が?」

「色々とお世話になってしまって」

「楽しかったよ。雅さんの服選びのコツは本当に理に適っていて…高取も選んだプレゼントを喜んでくれる。プレゼントは雅さんから渡す?」

「いえ、私はその時に日本に居ないので、篠崎さんにお願いできますか?」

 私はフランスに帰国する。だから、お兄ちゃんの誕生日をお祝いすることは出来なかった。

「フランスに帰るの?日本で仕事をしていたらいいのに」

「今回は友人の代わりに日本に来ました。だから、彼女が日本にもうすぐ来るのでそれと入れ替わりに私はフランスに戻ります」

「雅さんがずっとこっちにいるなら、またこんな風に洋服を選んで貰えると思ったのに残念だな。じゃあ、雅さん。もしも日本で仕事をすることになったら、俺の専属のスタイリストになってよ」

 私が日本で仕事をすることはないと思うけど、篠崎さんの洋服を選ぶのは楽しかった。
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