君をひたすら傷つけて
スペイン料理の店『Felicidad』は外観と同じように明るく清潔感溢れる場所だった。窓から差し込む陽射しの柔らかさに店内は満たされている。テーブルだけでなく棚にもレジにも花が飾ってある。

 テーブル席がいくつか並んでいるだけの店はシェフと数人のスタッフで切り盛りされていてるようで、厨房の中は忙しそうだった。

「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ。ご注文がお決まりになりました頃にお伺いします」

 案内されたのは店の窓際の席で、一つ後ろの席には恋人らしき二人が座り楽しそうに話をしていた。何を話しているのか聞こえないけど、とっても楽しそうな雰囲気にドキドキしてしまう。アルベールと付き合っているのにこういう雰囲気には慣れない。恥ずかしさに身を竦めてしまった。

「何にしようか?おすすめはパエリアらしいぞ。車が無かったらサングリアを飲みたいところだな。夜は和食の店を予約しているからあんまり食べ過ぎないように。本格的なパエリアなら量が多いかもしれないな」

「パエリアは好きよ」

「なら、これにするか?後はサラダとスープと肉料理でも頼むか?パエリアのランチコースでもいいな」

「うん。ランチコースがいい」

「じゃ、それにしよう」

 注文が終わって、「そういえば…」そんな言葉で始まったお兄ちゃんの話を聞きながら、私は懐かしさを感じていた。日本に居た時はこうやって仕事の合間に一緒に美味しいものを食べて回った。その度に、お兄ちゃんの見識の深さに尊敬もしていた。優しくて強くて思いやりのあるお兄ちゃんが私は好きだった。

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