君をひたすら傷つけて
「どうした雅」
「え?」
「今日はいつもみたいに話さないけど」

 テーブルには少し小さめのパエリアとサラダとスープが並んでいる。サラダ一つをとっても丁寧に作られていたし、パエリアは本当に美味しかった。魚介も新鮮で香りもいい。小さな店だけど席は一杯で外にも人が並んでいるようだった。

「お兄ちゃんとこんな風に会うの久しぶりだから。それに私服のお兄ちゃんが見慣れなくて」

 初めて会った時、私は高校生でお兄ちゃんは就職して少し経ったくらいの頃だった。その時から、会うときはスーツを着ていることが多くて、こんな風に私服で会うのは初めてかもしれない。

「確かに雅からするとそうかもしれないな。自分でもスーツの方が着慣れていると思う。ネクタイをしてないと、首元がなんか落ち着かない。でも、今日はスーツの必要ないだろ。職業病かな」

 お兄ちゃんはシンプルなシャツに形の綺麗なボトム。羽織ったジャケットは色こそ黒だけど、その素材が柔らかそうだし、シャツの胸元のボタンを一つだけ外されている。時計もいつものとは違う。細かなところまで目が行ってしまうのは私も職業病かもしれない。

「見慣れないけど似合ってる」

 私がそういうとお兄ちゃんはニッコリと微笑んだ。

「フランスで活躍中のスタイリストの雅にそう言って貰えると嬉しいよ。私服はあまり着ないし、今日は雅と出掛けるから、雅が一緒に歩いて恥ずかしくないようにとは思ったよ。俺と一緒に歩いて恥ずかしくない?」

「そんなことあるわけない」
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