君をひたすら傷つけて
アルベールを選ぶということがお兄ちゃんとの別れを意味しているとは思ったことはなかった。どんなことになってもお兄ちゃんはずっと私のお兄ちゃんで居てくれると思っていた。でも、それは私だけが思っていることだった。

 私の幸せを願う言葉は…別離の言葉も同じだった。

「俺は雅の幸せだけを祈っている」

 優しい言葉なのに寂しい。お兄ちゃんとの別れなんか考えたことはなかった私は少なからずショックを受けていた。でも、それを出してどうなるのだろう。私はアルベールと新しい人生を歩くと決めたのに、それが揺らぎそうになる。

「本当の妹ならよかったのに」

「そうだな」

 妹ならこんな風にもう会えないということも、こんな風に心を揺らすこともない。アルベールのことを大事に思い始めているのに、私の心には義哉がいる。義哉への思いは鮮やかに私の心の中にあり、今も私を縛り付ける。義哉は望んでないのに、きっと私が望んで縛られているのだろう。

 初恋は忘れることなんか出来ない。

「でも、困ったことがあればすぐに連絡してこい。俺はずっと雅の味方だよ」

「うん。ありがとう」
「さ、行くか」
「うん」

 車に乗り込むとさっきまでの暑さはどこに行ったのかと思うくらいに急に冷えて行くのを感じた。歩いた時間が少しだったから、冷房を切った後でもまだ冷気が残り、夏の日差しを浴びた肌には心地よいと思った。

 でも、胸の奥に鉛のような重さを感じていた。

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