君をひたすら傷つけて
「それって私のためでもあるの?リズの新しい事務所が軌道に乗るため?」

「雅の為でもリズさんの為でもない。最初はスタイリストは日本のスタイリストに同行して貰うつもりだった。でも、現地に慣れてないスタッフだから、正直、不安もあった。今回、撮影料が格安だったこともあり、衣装にもお金を掛けられる。だから、リズさんにお願いしたいと思っている。海の為に最高のスタッフを用意したい」

 お兄ちゃんの篠崎海への思い入れは深い。

「お兄ちゃんがそんなに世話を焼くなんて妬けちゃうわ」

 半分冗談で半分は本気。大事なお兄ちゃんを取られたような気もしないではない。でも、安心もする。お兄ちゃんの心の中の隙間を篠崎さんが埋めてくれるのならと思う。私もお兄ちゃんも義哉の死を受け入れながらも結局は何か探しているのかもしれない。私はアルベールにそして、お兄ちゃんは篠崎海に…。

 義哉が生きていてくれたらと今でも思う。

「雅は卒業しろ」

 そう言って笑ったお兄ちゃんの顔は知らない男の人の顔をしていた。でも、それは一瞬でいつものお兄ちゃんに戻る。客観的に見ると本当に人を寄せ付けないように見えるのに、瞳の奥の優しさに私は甘えている。お兄ちゃんが私に『卒業』という理由も分かっている。それでも私はその言葉に傷付いていた。お兄ちゃんは私を思ってくれているのに、その言葉が私を傷つけた。

「そろそろ帰るか。仕事の件は正式に話しが行くからその前にリズさんにお願いしてくれたら助かる」

「きっとリズは受けてくれると思うよ」
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