君をひたすら傷つけて
 アルベールに婚約者が居るなんて聞いたことなかった。アルベールからは勿論、リズからも聞いたことがない。リズは顔が広いし、アルベールと同じ業界に居るのだから知っていたら私との恋愛を進めたりはしないだろう。

 でも、アドリエンヌという女性が真っ直ぐに私を見つめている。その真剣な表情に嘘をついているとも思えない。でも、アルベールが婚約者が居るのに私と結婚をしたいと言うはずもない。両親にも会って欲しいとも言われている。アルベールが私を騙すとは思えなかった。

「婚約者?あなたが??」

 アドリエンヌさんは私を上から下まで見て、キュッと唇を噛んだ。

「アルベールと私は生まれた時から決められた許嫁です。私が半年後に成人したら結婚の予定でしたが、アルベールはそれを辞めたいと言い出しました。それは貴女がいるからです。私はアルベールの許嫁として育てられ、今まで生きてきました。

 行く行くは叔母の残した企業を二人で後継する予定でした。アルベールは後継者の座も捨てて、貴女とのことを許して欲しいと言っていますが、アルベールの両親はともかく叔母は許さないと思います。アルベールのことが好きなら身を引いてくださいませんか?」

「身を引く?申し訳ないけど、あなたの言っている意味が分かりません。アルベールはモデルですよね」

 モデル以外のアルベールを私は知らない。前に素敵なレストランに行った時に親族に企業家がいるようなことは言っていたけど、許嫁まで居るとは思わなかった。でも、アルベールとこのアドリエンヌさんは年齢差もある。何がどうなっているのか私には分からなかった。
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