君をひたすら傷つけて
 リズと一緒にタクシーに乗り込み向かった先はニューヨークでも有数のホテルだった。ニューヨークでの撮影の間はここで過ごすことになっている。その後はいくつかの都市を回り撮影を行うことになっている。

 私はタクシーを降りて、そのホテルの豪華さ、そして、周りに聳え立つビル群の高さに圧倒された。摩天楼とはよく言ったもので、その迫力は実際にその場に来ないとガイドブックでは分からないと思った。

 マンハッタン島の中央部にあるそのホテルは空高く真っ直ぐに伸びる窓が続き、その横を支えるように茶色の壁が聳え立っている。エントランスに向かうドアには金色のドアがあり、その先にガラス越しに異世界が広がっている。

 プレスの効いた制服を来たドアマンがリズと私の所に来ると流暢に英語で話し出した。すると、リズも私が聞きとれないくらいの速さで英語を話している。私と話す時とは全く違う速さだった。

 フランスに語学留学した際にかなり洗練されたと自分でも思っていた私の耳はスピードについて行くことが出来ない。ドアマンの話したスピードでは聞き取れたけど、リズの高速スピーキングに私は所々のセンテンスしか分からなかった。

「さ、チェックインしてから挨拶に行かないと」

「リズ。本当にここなの?」

「そうよ。私と雅の部屋は隣同士で、篠崎さんと高取さんも同じ階よ。スタッフは現地調達だから、このホテルにいるのは四人だけだから、気楽に過ごせるわ。篠崎さんと高取さんは今回は仕事相手だから、雅も言葉遣いとかには気を付けて」
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