君をひたすら傷つけて
 篠崎さんもお兄ちゃんも知っているとはいえ、今回は仕事で来ている。そのことを忘れてしまいそうになっていたので、リズの言うとおり今回はお兄ちゃんの知り合いとしてではなく、スタイリストのリズのアシスタントとしてここに来ているのを忘れてはいけない。

「スタイリストは別なホテルになると思っていた」

「普通はそうよ。今回は特別ね。普通ならホテルも自分たちで探さないといけない時もあるけど、今回は高取さんの好意ね。ここのホテルには三日くらいしか居ないけど、その間楽しみましょ。荷物を置いたらすぐに挨拶に行くから、スーツケースを部屋に入れたらすぐに出てきて」

「はい」

 チェックインを終わらせた私とリズが案内されたのはシングルルームが続くフロアだった。身体が浮いてしまいそうになるエレベーターに乗り、案内された部屋がシングルルームとは思えなくくらいに広かった。そして、部屋に荷物を入れ、カードキーを受け取ってからすぐに篠崎さんの挨拶に行くことにした。

 リズがノックをして部屋のドアが開くと、そこにはお兄ちゃんの姿があった。篠崎さんの部屋に行く前にマネージャーのお兄ちゃんに挨拶するのが先。緊張していた私とリズの前に出てきたお兄ちゃんはホテルの部屋に居るのだから、少しはプライベートな雰囲気があるのかと思ったけど、お兄ちゃんは仕事モードだった。

「高取さん。お疲れ様です。ただ今、ホテルに到着しましたので挨拶に参りました。今回はホテルの予約などありがとうございました」
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