君をひたすら傷つけて
「こちらこそ、ニューヨークまでお越しいただきありがとうございます。先日からの急な依頼をお受けいただき感謝しております。海を呼んできますので部屋に入ってお待ちください。明日からの打ち合わせをしようと思います」

「はい。わかりました」

 お兄ちゃんは私とリズを自分の部屋のソファに案内すると部屋を出て、篠崎さんを呼びに行った。私とリズは案内されたソファに座りながら、部屋の中を見回した。お兄ちゃんの部屋は私達の部屋とは違い、ドレッサーの横に大きな机がある。

 その上にはパソコンが開かれている。その横には今回のスケジュールだと思われる紙が無造作に重ねてあり、それには赤線がたくさん引いてある。ここは休むための部屋ではなく、篠崎海のための小さな事務所だった。

「本当ならこの場所に普通のスタッフは入れないでしょうね。入れた上に自分がその場を外すなんて」

 そんなリズの呟きに応えようとしたけど、お兄ちゃんが篠崎さんといっしょに部屋に入ってきたので何も言えなかった。

「リズさん。雅さん。今回はありがとうございます」

 お兄ちゃんと違って、篠崎さんはオフモード。人気俳優のオフモードは、何を着ていてもその場を華やかにした。普通のチノパンにシャツを羽織っただけだったのに、用意された衣装のようによく似合っている。セットされてない髪がふわりと揺れた。

「こちらこそ色々とお気遣いありがとうございます」
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