君をひたすら傷つけて
「これからのスケジュールの確認をしたいと思います。今日は夜にこのホテルのレストランを予約してます。映像作家の橘聖をその場で紹介します。明日は朝、5時にエントランスに集合です。朝食は途中で軽食ではありますが、準備します」

 リズと私はお兄ちゃんから渡された資料を見ながら説明を聞いた。必死にメモをしていて、フッとお兄ちゃんを見上げると、お兄ちゃんと目が合ってしまった。お兄ちゃんはフッと口の端を緩め、またすぐに引き締めた。

「夜明けと同時に撮影開始になります。衣装の打ち合わせはレストランでの食事の後に短時間で……。明日の朝は気温が下がるらしいので、海はギリギリまで身体を冷やさないように」

「高取。予定通りに行けばいいな」

 篠崎さんは予定表を見ながらニッコリと笑うが、お兄ちゃんは全く笑ってなかった。

「そうですね。行かせたいですね。今夜遅くにクライアントがニューヨーク入りするので、一緒に車で向かうことになります。温厚な人ですので障害にはならないでしょうが、撮るのが橘聖だから、どうなるか予想できません」

「聖が気に入らなかったら、それで撮影は続行だからな。一発で終わらせるように頑張るよ」

「海が頑張っても夜明けの雰囲気が気に入らなかったら難しいでしょう。橘聖が気に入る夜明けであることを祈りましょう」

 橘聖は気難しい映像作家らしい。橘聖はどんな人なんだろう。一緒に仕事をする人が優しい人ばかりでないのは分かっているけど、篠崎さんとお兄ちゃんが溜め息を吐きながら話す人だから気合いを入れないといけない。

 そんな人との顔合わせは緊張してしまいそうだった。
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