君をひたすら傷つけて
「さ、聖が来るなら部屋に帰って身体を休めておくよ。でも、明日は疲れそうだからな。じゃ、リズさん。雅さん。また後で」

 そう言うと篠崎さんは自分の部屋に戻って行った。

「それでは私たちも一度部屋に戻ります」
「雅。ちょっといいか?」

 後に残されたリズと私も一緒に部屋を出ようとしていた私を呼びとめた声はいつものお兄ちゃんの声だった。

「雅。先に戻るわ。それと今晩のレストランでの食事の一時間前には私の部屋に来てね。ドレスコードあるから」

 そういうとリズは私を置いて一人で戻って行ってしまった。

 お兄ちゃんと二人っきりは久しぶりだった。

「何ですか?」

「二人の時はいつも通りでいいよ。雅に敬語で話されたら疲れる」

「何?」

「今日のレストランのことを事前に連絡してなかったから」

 そう言うとお兄ちゃんは机の奥の方に歩いて行くと大きな白の箱を持って戻ってきた。スタイリストの私には分かる。これは洋服の入った箱だ。ピンクのリボンが艶やかに光を浴びている。

「これ。私に?」

「そうだよ。リズさんが居るならきちんと準備しているだろうということをすっかりと忘れていた。着ても着なくてもいいけど、女性物の服を俺が持っていても困るから」

「開けていい?」

 お兄ちゃんが頷いたので、私は大きな白の箱を座っているソファの上に置くと、ピンクのゆっくりと解いた。白の柔らかな紙に包まれていたのは綺麗な紺のワンピースだった。スカート部分にはシフォンが重ねてあり、ノースリーブの上半身はスッキリとしていて生地の良さが裁断の良さを思わせた。

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