君をひたすら傷つけて
 自分の部屋に戻って、一度シャワーを浴びてから荷物の整理をすることにした。スーツケースから出すものは少しだけにして、明日、撮影に持っていくものだけを準備した。そして、私は落ち着いてからバッグから携帯を取り出した。

『無事にニューヨークに到着しました。撮影期間が終わって日本に戻って事後処理をしてから、フランスに戻ります。アルベールも仕事頑張ってね』

 私はアルベールの返事を待つことなく携帯の電源を落とした。アルベールとアドリエンヌさんのことを思い出すと胸の奥が重くなるけど、今は目の前の仕事を頑張りたいと思う。プライベートの事はこの撮影の間だけは何も考えたくなかった。

 今の私にとって…アルベールは失いたくない存在だった。でも、アドリエンヌさんの真剣な表情が目の前から消えない。アドリエンヌさんを見ていると私が昔に無くしてしまった大事な心を思い出させる。義哉はもう居ないのに…。深い愛に触れる度に私は義哉を思い出す。それはそれで仕方ないことだった。

 いくらアルベールが好きでも…。私は義哉のことを忘れることは出来ない。それは私に架せられた枷だった。

 ベッドに横になり、私は目を閉じた。眠るつもりはない。でも、自分の事を落ち着ける時間は必要だった。

 ベッドの上で時間を過ごしているとリズの部屋に行かないといけない時間になっていた。ドレスに着替えてヘアメイクが終わると、本当の意味での仕事が始まる。
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