君をひたすら傷つけて
「間に合ったかな」

 そう言って入ってきた男の人は漆黒のスーツを着込んだ芸能人だった。俳優と言うよりはモデルと言った方がいい風貌の彼は私とリズにニッコリと笑ってから、篠崎さんの席の横にドカッと座った。二人が並ぶと雑誌の中から出てきたように華やかだった。

「相変わらずですね。橘さんは。一応、仕事の打ち合わせなのですが」

「そんなに人間は簡単には変わらないよ。俺も相変わらずだと思うよ。高取さん。それよりもこの綺麗なレディを紹介してよ」

 そんなお兄ちゃんと橘さんのやり取りを見ながら、篠崎さんはクスクスと笑っていた。そんな笑っている篠崎さんを横目で見ながら、お兄ちゃんは言葉を続けた。

「さ、揃ったことですし、始めましょうか。今、入ってきた人が今回の撮影を行う橘聖さんです。真紅のドレスの女性がスタイリストのリズさんで、濃紺のドレスの女性がリズさんのアシスタントの藤堂雅さんです」

 お兄ちゃんが紹介してくれたので、リズと私が立ち上がって軽く頭を下げると、橘さんも立ち上がってニッコリと笑った。強い瞳の光りに引力を感じさせる彼は圧倒的なオーラを醸し出していた。

「初めまして。橘聖です。俺は海斗の大学の時からの親友で、以前はモデルとして同じ事務所にいたけど、その後はここでカメラマンのアシスタントをしながら、自分でも映像を取ってます」

「海斗?」

「俺の本名だよ。篠崎海斗が俺の名前。芸能界に入ってもすぐにやめるつもりだったから、芸名も本名から『斗』を取っただけなんだ」

 
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