君をひたすら傷つけて
 私はワインを飲みながら、そんなことを言うリズに驚いてしまった。いつもとは違う低い声が橘さんも驚いたのか、リズの顔を凝視している。でも、眉間に皺を寄せた。誰だかわからない様だった。

「リズさん?……。いや、違う」
「俺のこと。忘れたか?聖。エマと三人でいつも飲んだろ。そこで別れた女の愚痴を言いまくっていただろ」

 聖さんはハッとした、表情をして、すぐにまた、眉間に皺を寄せた。頭の中の混乱状態が手に取るようにわかる。

「その声……リチャードか?え?あ?リズ??……その姿。……あ。顔がリチャード??いつ、女になった?」

「ちょっと前だよ。今回はエマと新しい事務所の立ち上げの初めての大きな仕事だから失敗できないから。聖も気を抜くなよ」

「説明して貰えますか?」

 お兄ちゃんはリズと橘さんの話を聞きながらも、分からないことが多すぎて質問してきた。明日から一緒に動くからには把握しておきたかったのだろう。

「俺が渡米してすぐにお金が無くなってしまって、先生に日参しながら、モデルのアルバイトを始めた。その先で出会ったのがエマとリチャードだった。エマもリチャードも尋常じゃない野心家で、そこに似たものの俺も一緒に居ることが多くなった。トップモデルと目指す二人を撮影して自分の技術を磨いた。で、なんでリチャードはそんな姿に?」

 私が知らないリズの性転換の理由を聖さんはこともなげに聞いてきた。プライベートすぎる内容にリズが何を応えるかと思ったけど、リズは顔色一つ変えなかった。

「私が美しいから」

「そうか」

「そうよ。だって、男の姿よりも今の女の姿の方が美しいもの」

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