君をひたすら傷つけて
 リズは白シャツを黒のボトムを身に着けた篠崎さんの肩にケープを掛けるとフワッと笑った。手にはブラシを持っていて、その視線は微笑みながらも真剣だった。

「綺麗な肌を作ります。もしも、頬に赤みが出ても、抑えるから身体に温かいものを入れたらどうですか?聖の撮影は長いと思います。今からそれでは疲れますよ」

「聖は化粧で納得してくれないと思うので、最低限のメイクでいいです。どうせ、息を止めろとか言われそうだし。それにしても、このケープ。凄く温かいです。リズさん、ありがとう」

「いえいえ。布一枚くらいしか用意出来ませんが、そろそろですね」

 リズが用意したケープは普通の物とは違い、生地で薄いのに伸縮性もあり、保温性もあるものだった。普段のコレクションでは使わないものだけど、このためだけに用意したのだと思った。普通のケープも準備しているのに、モデルの体調を周りの環境を見てのことだった。

「そろそろ戦闘開始でしょうか。俺は聖を攻略できますかね?」

「そうですね。私の知っている橘聖も篠崎さんの知っている橘聖もほぼ一緒だと思います。妥協は許さない」

「ナイスな答えですね」

 そう言ってリズは笑った。私は篠崎さんの着ていた服をハンガーに掛けたり、リズの手伝いをしていた。今回の撮影スタッフは本当に多数。でも、モデルの篠崎海に近付けるのは数人だけだった。

 篠崎さんはゆっくりと立ち上がると、胸元のケープを外し、ゆっくりとリズと私の方を振り向いた。

「ごめん。一発で終わらせたいけど無理だと思う」
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