君をひたすら傷つけて
「放棄?」

「そうよ。あれだけの男性に女が放っておくとは思えない。仕事は出来るし、篠崎海ほどではないけど端正な部類の顔をしているし。普通に考えて、彼女の一人や二人がいてもおかしくない。芸能事務所に勤めているのだから、経済的にも安定しているし、綺麗な女優やモデルとも出会う機会も多々あると思う」

 お兄ちゃんに恋人がいるとか聞いたことはない。今も私が知らないだけで付き合っている人がいるかもしれないけど、昔は義哉に思いを注ぎ、そして、今は篠崎さんがお兄ちゃんの生活の真ん中にいる。そして、いつか素敵な女性がお兄ちゃんの横に立った時に私はお兄ちゃんの邪魔になるだろう。

 お兄ちゃんが私を妹のように構うのは目に見えている。

 アルベールとのことは、私にとってもお兄ちゃんにとってもいいことなのかもしれない。二人とも歩き出す時期に来ているのだろう。

「リズの言うとおりかも」

「雅にはアルベールがいるわ。アルベールは周りから見ていてもわかるくらいに雅のことを大事にしてくれているでしょ。雅も幸せにならないといけないわ。義哉くんもそれを望んでいると思うし、大好きな人の不幸を望むような人ではなかったでしょ」

「うん」

「少しゆっくりしましょ。フランスに着いた時にキツいわよ」

 リズはそういうとブラケットを肩まで引き上げて目を閉じた。私も同じように目を閉じたけど、中々、眠ることは出来ず、お兄ちゃんとアルベールのことが頭から離れなかった。アルベールのことを好きだと思う気持ちはある。

 でも、あの日のような恋ではないというのもある。

 自分の気持ちが分からないまま、流されていくのを感じながら、私はアルベールの待つフランスに戻ることとなった。
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