君をひたすら傷つけて
 アルベールの宿泊している部屋はシングルルームではあるけど、セミダブルベッドの置いてあるかなり広めの部屋だった。ベッドだけでなく、応接セットにミニバーまである。ゆったりと生活するのには困らないつくりになっており、長期滞在も優雅に過ごせるのは容易に想像できた。

 ルームサービスのコーヒーが届くと、三人掛けのソファに私とリズが座り、その横にある一人掛け用のソファにアルベールが座ると、部屋は沈黙に包まれた。何を話したらいいのかと考えていると、静かに話し出したのはアルベールだった。

「ニュースに流れたモデル引退の件は本当のことなんだ。モデルを引退して、南フランスの実家というか本家に戻り、家業を継ぐことになった」

「家業?」

「事業を手広くやっていた叔母が亡くなり、その後継に俺が遺言で残されていた。小さいころから叔母は優しかったけど、仕事第一であんまり会うことがなかったから、なんで自分は後継に選ばれたのか分からなかった。でも、葬儀の席で、俺が叔母の若い頃に産んだ息子だということが分かった。そして、仕事が忙しいので、俺は叔母の妹夫婦に養子として引き取られたらしい。 

 自分の大事な両親が実は叔母夫婦だったことにも驚いたし、後継に選ばれたことにも驚いた。モデルの仕事を一生していくつもりだったけど、事業を引き継ぐものがいなければ、たくさんの従業員の生活にも関わってくる。

 だから、モデルを引退することを考えた。でも、親族の中に俺をよく思わない人もいて、今回の件をリークしたようだ。俺の今までの人生を洗いざらい晒されただけでなく、雅のことも調べられている」
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