君をひたすら傷つけて
『遠慮しないでいいのに。とりあえず、エマの事務所で待ってる。何かあったら連絡して』
『分かった』

 まりえは自分のマンションでもいいのにと言っていたけど、私は遠慮ではなくウィークリーマンションが一番良かった。その間に手続きを全部終わらせればいい。そう思っていた。交通機関を乗り継いでエマの事務所に辿り着くと、時差ボケによる眠さに包まれていた。枕に頭をつければそのまま眠れそうなくらいだった。

 でも、今回は一人で帰ってきているので眠るわけにはいかない。手にあるスーツケースも自分で持たないといけない。

 今回の帰国について、私はお兄ちゃんには連絡してなかった。何をどう説明していいか分からなかったし、あの日のことがあるから連絡は出来なかった。お兄ちゃんは私の幸せを祈ってくれたのに、私はアルベールの手を取ることが出来なかった。急激な周りの変化に私の心はついていくことが出来ずに自分で決めた気持ちの整理に時間が必要だと思っていた。

 エマの事務所が篠崎さんの所属している芸能事務所と一緒に仕事をするなら、いつかは会うだろう。それまで自分から連絡をするつもりはなかった。

 交通機関を乗り継いで、やっとの思いでエマの事務所まで来ると、本当に疲れ切っていた。前はお兄ちゃんが車で迎えにきてくれて、マンションの手続きの付き添いから、携帯電話。それに、食事にも連れて行ってくれたりと色々なことをしてくれたから、そんなに思わなかったけど、自分で動くことによってお兄ちゃんに甘えていたことを感じた。
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