君をひたすら傷つけて
 エマの言葉が何となく嫌でお兄ちゃんとの約束の時間よりもかなり早くに私は事務所を出て駅まで歩くことにした。エマの言葉は現実的かもしれないけど、だからといってお兄ちゃんに仕事の依頼はしたくなかった。それは私の中にある少しのプライドでもあったからかもしれない。エマの言う通り、私がお願いしたらお兄ちゃんはきっと私の仕事のことで色々な意味で手を貸してくれるだろう。

 でも、仕事とプライベートを切り離したかった。

 ただ、食事をするだけなのに私は気が重かった。これまでのことをどう話していいかと考えながら駅まで歩いていると、約束のカフェのガラス越しにお兄ちゃんの姿が見えた。相変わらずのスーツ姿でまだ仕事の真っ最中だった。

 窓辺に座るお兄ちゃんの前には小型のパソコンがあって、真剣な表情で何かを打ち込んでいる。七時という中途半端な時間はお兄ちゃんの時間を潰してしまったのかもしれない。普段ならまだ仕事をしている時間だろう。

 店に入ってお兄ちゃんの前に座ると、お兄ちゃんはパソコンの画面から視線を上げ、穏やかに微笑んだ。

「少し待てるか?海のスケジュールだけを今日中に送りたい。明日のスケジュールの変更は早いうちに教えておきたいから」

「私に気にしないでいいよ。篠崎さんの仕事は大丈夫なの」

「今日はこの後は何もない。でも、もう少ししたら忙しくなる。こっちから誘っておいて待たせて悪い」
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