君をひたすら傷つけて
 カフェを出て、近場の居酒屋に入ったのは自然の成り行きだった。本当にどこに行くのか考えてなかったようで、近場で少しだけ歩いた場所にあった女の子が好きそうな居酒屋に入ることにした。仕事帰りのサラリーマンが楽しむような赤提灯の店は騒がしいだろうから少し静かな雰囲気の店は丁度よかった。

 まだ時間も早いので、カウンターではなくテーブル席が空いていた。個室は予約がないと難しいので、一見の客である私たちが使うことは出来なかった。いつも予約してから食事に行っていたので、こんな風に行き当たりばったりの行動は初めてだった。

 居酒屋の割にはモダンな造りの店内は外観とは違って、お洒落な雰囲気だったので女性のお客さんが多かった。

「テーブル席にどうぞ」

 案内された壁際の席に座ると温かいおしぼりを渡され、ドリンクメニューも渡される。お兄ちゃんは珍しくスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを少しだけ緩める。

「俺はビールにするけど、雅はどうする?」

「私もビールで」

「料理はどうする?」

「なんでもいい」

「了解」

 店員に注文をすると、先に生ビールが運ばれてきて、そのあとにお兄ちゃんの好みで選ばれた料理がテーブルに並んだ。見目美しいお造りや前菜が並ぶとフッと自分の顔が緩んだのを感じた。

 お兄ちゃんは私の好みをよく知っている。高校生からだから当たり前だけど、こういう細かなところでもよくわかる。

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