君をひたすら傷つけて
「美味しそう」

「好きなものを好きなだけ食べたらいい。さ、とりあえず乾杯だな。お疲れ」

「お疲れ様」
 
 そういって乾杯してからビールを飲むと冷たさが喉の奥を潤していく。美味しいと感じるくらいに私は喉がカラカラだった。お兄ちゃんの目の前で私は緊張していた。

 ビールを飲みながら、お料理を口に運んでいるのは一緒なのに、今日は空間が静かすぎる。『美味しい』とか『ちょっと味が濃いかも』とかどうでもいい話をするのは出来るけど、仕事の話もアルベールの話も出来ない私は会話の糸口を探してしまう。そして、ぎこちない会話の口火を切ったのはお兄ちゃんだった。

「この頃、仕事はどうだ?エマさんの事務所の話は色々な場所で耳にする。頑張っているらしいな」

「エマはすごい。リズの友達なだけあって、とってもパワフルで私も置いて行かれないように必死に毎日過ごしていた」

「そうか。それはよかった。元気だったか?」

「うん。元気にしてた。お兄ちゃんは?」

「海の仕事がどんどん増えていくから、毎日、走り抜けるように忙しい。でも、その分やりがいもある。でも、困ることもある」

「困ること?」

「海が雅を連れて来いって煩い」

「私?」

「謝ってでも連れて来いって言われて」

「謝る?別に謝るようなことをしてないでしょ」

「無理やり雅をニューヨークに連れて行ったことを海が気にしている。仕事のために無理をさせたんじゃないかって」
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