君をひたすら傷つけて
 いくつもの出会いの中で私は義哉と出会い、お兄ちゃんと出会った。そして、こんな風に夜を一緒に迎えて、コーヒーを飲みながら、窓際に淡い朝の光を感じることが出来る時間になると、私の携帯が震えた。昨日、何度電話をしても出ることのなかったエマからの着信だった。

「エマからだわ」

 私が通話ボタンを押すと弾けるような元気な声が響いた。

『おはよう。雅。昨日は携帯を車の中に置いたまま、部屋で寝ていたみたいで、着信に気づかなかったけど、何があったの?』

『私のマンションに空き巣が入って、昨日は高取さんにお世話になった。で、出来るだけ早い時期に引っ越したいと思っているの』

『セキュリティはしっかりしていたと思っていたから、吃驚よ。でも、うーん。高取さんと代わってくれる?』

 お兄ちゃんは私の横にいて、私が携帯を渡すと、それをとってお兄ちゃんはエマと話し出した。

『私の方は構わないですけど、そんなに長い間、大丈夫ですか?……。はい。雅のことは心配しないでいいです。海の仕事で手一杯になると思います。……。それでいいんですか?
 いえ、私は大丈夫ですが、………。
 はい、妹みたいに思ってますから。ご冗談は……。いえ、そういうわけでは』

「雅。エマさんが代わってくれって」

『エマ。どうしたの?』


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