君をひたすら傷つけて
『後から、詳しく話すけど、私、一度、ニューヨークに帰ることにしたの。あっちの事務所で色々とあって、で、おめでたいことなんだけど、まりえが妊娠して、数日は検査やなんかで大事を取って、休むことになったの。だから、雅はしばらく高取さんのマンションで暮らしてくれると助かる。スケジュール的には殆ど篠崎さんのスタイリングだけだから、高取さんと一緒に動いていた方が都合いいし』

『ちょっと待って。そんないきなり決められても困る。私はどこかのホテルでもいいし、ウィークリーマンションでもいい。高取さんに迷惑を掛けられないから。子どもじゃないから、一人でも仕事に行けるから』

『雅はウチの社員だから、その安全を私は保たないといけないし、私のためにも言うことを聞いて。ただの空き巣ならいいけど、もしもってこともあるでしょ。それに、高取さんも了承しているから』

 幾度とない、エマとの交渉も全て押し切られてしまった。私がお兄ちゃんの方を見ると、お兄ちゃんは分かっているというばかりに、頷く。

『でも』

『でも、じゃない。私が帰るまででいいから、高取さんのマンションにお世話になりなさい。私が日本に戻ってから、引っ越しでもいいでしょう。とにかくニューヨークに行っている間、雅にかかっているから頑張って。二日後にはリズにも日本に来てもらうようにしているから』
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