君をひたすら傷つけて
 翌日、私が起きるとお兄ちゃんは既に部屋には居なくて、仕事に行っているようだった。玄関先には明日からの京都撮影同行の荷物も準備出来ていることは流石だと思うけど、衝撃的な発言の後、寝れたのだろうかとは思った。

 私は簡単な朝食を取りながらテレビを見ていると、お兄ちゃんからの着信があった。いつもは珍しいと思いながら電話に出ると、耳元に届いたのはいつもの冷静さがどこに行ったのかと思うくらいに声が掠れていた。

『雅、悪い。今、いいか?』

『大丈夫。どうしたの?』

『海が昨日、女の子を自分の部屋に連れ帰った話はしたけど、その先があった』

『何?』

『結婚したいって』

『え?結婚??なんで??いきなりそんなことになるの??』

『本人は偽装結婚と言っているが、そんなつもりは更々ないだろう。婚姻届も書いたらしい』

 お兄ちゃんは努めて落ち着いて声を出そうとしているのが分かる。実際に俳優篠崎海が結婚しようとしているのだから、驚くしかない。それもナンパしてきた出会ったばかりの女の子と……。

『なんかあまりにも急展開で頭が可笑しくなりそう』

『でも、本気らしい。まず、指輪を買って、家具を買って、衣装を揃えて、食事に行くらしい。で、彼女の衣装を揃えるのと、買った家具を部屋に運び入れるのを手伝って貰いたい。女性の服を俺が触れるわけにもいかないし、家具の配置とかも、相談に乗ってほしい』

『それを一気に済ますのって大変だと思うけど』

『そうなんだが、京都に行く前に生活を整えてやりたいらしい』

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