君をひたすら傷つけて
 お兄ちゃんからの連絡で私が指定されたのはセレクトショップではなく、インテリアショップの入り口だった。ここの中で篠崎さんと一緒に彼女は家具を選んでいるのだろう。並んで出てきた三人を見て、私は声を掛けた。

「篠崎くん」

 私がそう呼ぶと、彼はニッコリと笑う。いつもは『篠崎さん』というのに、今日は『篠崎くん』と呼んで欲しいとの依頼だった。そして、彼女の名前は『藤森里桜』。篠崎さんが京都に行く前に捕まえてしまいたいくらいに好きな女の子だった。

「雅さん。今日は本当にいきなりすみません」

「いいわよ。他ならぬ篠崎くんの頼みですもの。任せてくれて大丈夫よ。

 はじめまして、里桜さん。篠崎くんのスタイリストの藤堂雅です。今日はこれからよろしくお願いします」

「藤森里桜です。こちらこそ、よろしくお願いします。でも、あの……これから何があるのでしょうか?」

 篠崎さんの偽装結婚の相手の里桜さんは……。可愛いけど、普通の女の子だった。篠崎さんほどの人が見初めるというか、強引に偽装結婚に持ち込み、指輪や家具などで縛ろうとしているとは思えないほどの普通の女の子だった。強引なことをしている上に、この後のことも何も言ってないようだった。怖がって逃がさないようにしているのくらいはわかるけど、ちょっとやり過ぎな気もする。

「何も言ってないのね」

「ああ」

 そう言った篠崎さんは表情を変えないけど、瞳の奥で私を必死に見つめてくる。篠崎さんが私を呼んだわけは自分と離して、少しだけ里桜さんの気持ちを緩めるためだろう。

 逃がさないつもりなくせに優しい篠崎さんの思いをお兄ちゃんは尊重するつもりだろう。お兄ちゃんは何も言わずに私を見つめていた。

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