君をひたすら傷つけて
「榎木監督。おはようございます。今日からよろしくお願いします」

「おはよう。高取くん。そちらが例の?」

「はい。篠崎の専属スタイリストの藤堂です」

 例の??って何だろうと思いながらも、私はリズに仕込まれたお辞儀をする。背筋を綺麗に伸ばし、それから微笑みを浮かべてから、ゆっくりと身体を曲げる。

「藤堂雅と申します。篠崎さんのスタイリストとして、撮影に参加させていただきます。よろしくお願いします」

「監督の榎木です。よろしくお願いします」

 差し出された手に自分の手を重ねるととっても温かった。名刺を交換して握手をしている時はどこにでも居そうなおじさんだけど、多分、撮影が始まると変貌する気がした。

「雅さん。おはようございます。今日からよろしくお願いします」

 数日前会った時の篠崎さんとは雰囲気が違うのは今は『俳優篠崎海』だからなのだと分かる。この間、里桜ちゃんと一緒にいた時とは全く違う俳優の顔に私は自分の背筋が伸びる気がした。

「こちらこそよろしくお願いします」

 挨拶を済ませると、また、榎木監督と篠崎さんは真剣な表情で話し出した。間に助監督やマネージャーを挟まずに二人で真剣に打ち合わせしているのを、周りのスタッフが自分の仕事をしながらチラチラと見ている。そして、撮影の始まるのを今かと待ちわびていた。

「さ、そろそろ撮影に入る。ここでの撮影は一週間の予定です。シーン168から。海。中央のベンチから。準備が終わり次第、撮影開始」

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