君をひたすら傷つけて
 厳しい撮影が続き、気付いたら、既に陽も陰っていた。緊張の余り、私は肩に力が掛かっていて、いつも以上に疲労を感じた。でも、それは私だけでなく、スタッフだけでなく俳優陣も疲れを見せていた。

「今日はここまで」

 そういって周りの空気が緩んだのは朝の撮影から12時間が過ぎていた。その合間に天気待ちだったり、他の俳優の撮影だったりと、篠崎さんの撮影も細切れで、私はその合間に、準備をしながら、撮影に臨むというものだった。

 監督はカメラの映像を確認しながら、難しい顔を見せ、その周りのスタッフは祈るような表情をしている。その意味が分かったのは数分後だった。

「明日、最初のシーンから撮影しなおす。光の加減がどうも違和感がある」

 一気に落胆の色を浮かべる現場で篠崎さんだけがニッコリと微笑んでいた。

「海、何か嬉しいか?」

「いや。さすが監督だと思って。いいものが作りたいと思ったら、妥協はするべきじゃないよな。実際に光の加減はソフトで弄ればいくらでもできるだろうに、それでも自然の光を大事にするところが尊敬できる」

「でも、撮影は延びる。スケジュールも厳しくなるぞ」

 人気実力派俳優の篠崎さんはモデル出身というのもあって、俳優業だけでなく、雑誌のモデルもしている。その全てのスケジュール管理はお兄ちゃんの頭の中で組み立てられる。

「スケジュールは高取に任せれば大丈夫。それと、今からは自由時間でいい?」

「ああ」

「里桜にメールするんだ。毎日10時にメールはするようにしているけど、それが押しつけがましくなっても嫌だろうし、かといって色々と聞きたいし」
 
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