君をひたすら傷つけて
 お兄ちゃんはそんな篠崎さんをみながら、フッとため息を零した。見るからに里桜ちゃんにメールをしたくて仕方ない表情をされるとお兄ちゃんでなくても分かる。

「スケジュールは確認して、後から海にメールをする。里桜さんのことが心配なのだろ。早くメールをして来い」

「ありがと、高取。雅さんもお疲れ様。明日もよろしく」

 そういって急いで自分の部屋に戻る篠崎さんを見ていると、私は少しだけ羨ましく思った。好きな人に巡り合える奇跡を手に入れることの素晴らしさを、そして、それが生きていく上でどれだけ大きな意味を持つかを私は知っている。

「雅。一緒に何か食べに行こうか」

「そうね。どこか知ってる?」

「ああ、雅と一緒に行きたいと思っていた店がある。時間的に厳しいかもしれないけど、連絡してみてもいいか?」

「入れるといいね」

「そうだな。でも、入れなくてもこのホテルには店は多いから、お腹を空かせることはないよ」

「篠崎さんは?」

「海はルームサービスじゃないか?里桜さんとのメールのやり取りの方が大事だろうし。先に連絡するよ」

 そういってお兄ちゃんは電話を掛けると、予約をする。

『大人二人。席は出来れば個室で……』

 少しの間があり、お兄ちゃんは私を見て、ニッコリと口の端を上げたのは予約が取れたのだろう。電話を切ったお兄ちゃんはニッコリと笑った。

「タクシーで急ぐぞ。時間はギリギリだけど、予約が取れた」

 篠崎さんが毎日メールをしている間、私とお兄ちゃんは撮影現場の近くにある店をいくつも一緒に食べて回った。お兄ちゃんといると自分の家にいるように寛ぐことが出来る。

 でも、それは…。いつかお兄ちゃんに好きな人が出来るまでの時間だと私は分かっていた。
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