君をひたすら傷つけて
 最初は何度も中断された撮影は最初は一週間の予定だったが、終わってみれば三週間が経っていた。それでも拘りを詰め込んだ映像は、脚本が変わったりしたことも影響しているとはいえ時間が掛かり、最終の撮影が終わったのは木曜日だった。

 まだ、今から編集作業があるとはいえ、篠崎海の代表作になるのは間違いない出来だと思う。それは素人の私だけでなく、私の横で篠崎さんの演技を見つめるお兄ちゃんの満足げな顔に表れていた。

「お疲れ、海。いい演技だった」

 そんなお兄ちゃんの言葉に篠崎さんは満足そうに笑い、そして、自分の腕を見た。

「高取。色々ありがとう。お前がいてくれたからだよ。それと、もう一つ我儘だ。まだ、午後二時だ。今から東京に俺一人で帰っていいか?」

 汗を拭きながら、まだシャワーさえも浴びてない状況で篠崎さんはお兄ちゃんを見つめていた。お兄ちゃんも少し肩を下げてから、篠崎さんを見つめた。

「里桜さんか?」

「ああ。里桜に会いたい。今なら、里桜が仕事から帰ってくる前にマンションに帰れる」

「今から監督とかとの打ち上げはどうする?」

「理由は俺から説明して、監督には謝る」

「なんて言うんだ?」

「『大事な人を待たせてますので帰ります』って言うつもりだが」

「そのままだな」

「ああ。だって監督を誤魔化すなんて無理だから、それくらいなら最初からはっきり言う。それに撮影も終わったから、監督も何も言わないと思う」

「わかった。監督に言いに行くときは私も一緒に行く。今から行くか?」

「いいのか?」

「ああ。帰りたい気持ちは分かるから」
< 731 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop