君をひたすら傷つけて
「いい天気だな。雅が里桜さんの準備をしている間に海と打ち合わせするつもりだ。今回の撮影が長引いたせいで、色々なスケジュールが詰まってる。ある程度の余裕は持たせていたつもりだけど、今回の撮影は監督だけでなくスタッフもいつになく熱が入っていた」

「出来上がりが楽しみね」

「ああ。まだ編集作業もあるし、完成したらしたで宣伝を絡めた仕事も増える」

「お兄ちゃんは大変ね」

「でも、楽しい」

 篠崎さんのマンションの駐車場に着くと、荷物はカートに積むのが面倒だと言って、結局はお兄ちゃんが全部持ってくれた。そして、篠崎さんの部屋のチャイムを鳴らすと出てきたのは篠崎さんだった。そして、その後ろに心配そうな顔をしている里桜ちゃんがいた。

 私は不安に思う時にリズがしてくれるように……ギュッと里桜ちゃんを抱き寄せた。大乗だと言ってあげたかった。

「おはよう。里桜ちゃん。今日は私に全部任せてね。いっぱい道具を持ってきたから安心していいわよ」

「おはようございます。よろしくお願いします」


 私は里桜ちゃんの抱きしめていた手を緩めると、私の横で穏やかに笑っている篠崎さんを見た。本当は挨拶を先にしないといけなかったのは分かるけど、つい身体が動いてしまったから、仕方ない。でも、篠崎さんはそれでいいというように笑ってくれた。

 会うたびに綺麗さを増していく篠崎さんだけど、自分の家にいる時、いや、里桜ちゃんと一緒にいる時は一段と幸せそうなオーラを放つ。そんな篠崎さんをお兄ちゃんは穏やかな瞳で見つめていた。
< 734 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop