君をひたすら傷つけて
 お兄ちゃんは電話を切ると、さっきよりももっと大きな溜め息を零す。誰だってこの電話をするのを喜んでする人は居ない。出来れば避けたい部類の電話だと思う。

「仕事なの?」

「仕事というか、海がいくつかのトークショーで会見をすれば、報道陣をマンションに行かせるのを止めるという条件だと思う。でも、結婚した当日に仕事で夜を連れ出すというのは気が引ける。里桜さんも一人にされると寂しいだろうし、不安にも思うだろう」

「本当に鬼畜な所業よね。新婚の二人を引き裂くようなことをしないといけないなんて。でも、出演については篠崎さんに一任させるというお兄ちゃんの判断は正しいと思う。一晩我慢すれば、里桜ちゃんの安全は保障されるもの。あれだけの報道陣の前で婚姻届を提出したのだから、その余波は篠崎さんも覚悟していると思うわ」

「本当に鬼畜だと自分でも思う。仕事と割り切るのも結構厳しい案件だな」

 そういうとお兄ちゃんは篠崎さんに電話を掛けた。電話は数コールで取られ、今度はさっきの社長よりも爽やかな声が車に響いた。

『悪い。海。仕事が入った。さっきの婚姻届を提出したからだろうが、社長のところに生出演のトークショーの依頼が入った。映画の告知もあるが、事が事だけに海の意見を聞いてもらうように社長には言っている』

 言いながら、お兄ちゃんは不本意だと言わんばかりの声を出す。篠崎さんの気持ちを思えば中々言いにくいことだと思った。でも、その場で断らずに篠崎さんに決定権を一任したのはお兄ちゃんらしい。

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