君をひたすら傷つけて
『ああ。……。うん』

 婚姻届を提出したその晩に妻を置いてこさせようとすることに、不満を覚えないものは居ない。それに、きっと里桜ちゃんの素直な気持ちを聞いて、篠崎さんにとっては離れたくないだろう。きっと二人で甘い時間を過ごしているはず。

『でも、この仕事を受ければ、海のマンションの囲み取材をさせないことを社長は条件として付けたらしい』

『ん……。それは分かるけど少しは考えろ』

『考えた上での電話です』

『わかった。これは貸しだよ。分かっているだろ。何倍にもして返して貰うから』

『勿論です。社長には私の方からキチンとこれからのことを念押ししておきます。すぐに社長に連絡してからマンションに迎えに行きます』

『分かった』

 電話を切ったお兄ちゃんはさっきよりも大きな溜め息を零した。不本意この上ないのだろう。

「雅をマンションに送ってから、海のところに行く」


「私はタクシーでいいわよ。それよりもスタイリングはついていかなくていい??」

「エマさんを通してないから」

「結婚祝いでいいわ。篠崎さんのマンションに行く前にコーヒーを奢って。バイト代はコンビニのコーヒーでいいから」

「いいのか?それで??」

「うん」

 お兄ちゃんは私を送って、その足で篠崎さんのマンションに行くとなると、ずっと、運転しないといけない。私はスタイリングが終ったらタクシーで帰ることも出来るけど、お兄ちゃんは徹夜になる。下手すれば、明日の仕事にそのまま突入になるだろう。

「スタイリングが終って、少ししたら帰るから」
 
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