君をひたすら傷つけて
 まりえが妊娠?
 
 驚いて、まりえの方を見ると、まりえは穏やかな微笑みを浮かべた。ほっそりとした体のどこに子どもがいるのかと思うほどで、それでも幸せそうだと思った。三人でコーヒーを飲んでいるかと思っていたけど、まりえのカップには普通の麦茶が入っていた。

「まだ二か月くらいなの。この頃、胃が気持ち悪いと思っていて、病院に行ったら、妊娠してたの。それと、旦那が転勤になったから、とりあえず、先に単身で行って貰って、東京で出産して、落ち着いたら赴任先に行くわ」

「じゃ、ここは??」

「辞めることになると思う。でも、前に比べたら順調に仕事も回っているから大丈夫。また、二、三年で東京に戻ってきたら、その時はまたここで働く。エマが許してくれたらだけど」

「きっと、事務所が凄いことになるだろうから、たまには顔を出してね」

「片付けはしないわよ」

 まりえは実際に営業に出ることはないが、ここで必ず待っていてくれる必要な人だった。留学から戻って、しばらくして結婚して…。そして、今度は妊娠。女の子の幸せと言われる道を真っすぐ歩いているように思える。

 彼女自身が溢れるばかりの才能があるのにも関わらず、選んだのは女の子としての幸せだった。好きな人と結婚して、その人の子どもを産む。私が二度と手に出来ないかもしれないものだった。

「寂しくなる」

「大丈夫。寂しく思う暇がないくらいにこき使うから」

 まりえに甘えたようなことを行った私を現実に引き戻したのはエマだった。有言実行のエマに私はきっとこき使われる。そんな遠くない未来が想像出来た。

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