君をひたすら傷つけて
 書置きを見て、私をベッドまで運んでくれたのはお兄ちゃんだと確信した。前は仕事が忙しい時は会社に泊まり込むことも多かったと聞いていたけど、私がマンションに一緒に住むようになってから、お兄ちゃんは毎日マンションに帰ってくる。

「コーヒーくらい一緒に飲みたかったな」

 そんな言葉が零れた。

 エマの事務所で撮影の後の打ち合わせをしていると、直接、お兄ちゃんから電話があった。今日、帰ってきてからの話と思っていたけど、電話してくるということは急用なのかもしれない。

『雅。今、いいか?』

『うん。今、エマの事務所で書類の整理をしていたから大丈夫。電話って急用?』

『雅の知り合いにウェディングドレスのデザイナーとか居ないか?実は先日、里桜さんのドレスのカタログを集めていたのを海が見て、やっぱりドレスくらいはオーダーがいいと言い出して』

『それって、日本でだよね。少しして連絡してもいい?すぐに思い浮かばなくて……』

『ああ。急だしな。さっき、海からいきなり言われて、頼れるのが雅しかいなかった』

 お兄ちゃんが私に頼ってくるなんて珍しい。出来るだけいいデザイナーを紹介したいと思うけど、すぐには思い浮かばない。

『分かった。連絡待っている』

 電話を切って、溜息を零し、名刺の入ったフォルダを取り出した。エマの事務所で一緒に仕事をしたことのあるデザイナーでもいいし、フランスでの知り合いでもいい。

 フランスやイタリアだったら、それなりの知り合いがいるけど、日本となると数少ない人しか居ない。そして、ふと思い出したのが、つい最近の撮影で再会した大学の同級生だった。
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