君をひたすら傷つけて
 私が大学の時、少しの期間だけ同じサークルだった人で、名前は阿部雅人(あべまさと)。今は都内でアトリエを開くデザイナーになっている。大学を卒業して、イタリアにデザインの留学して、大聖堂で見た結婚式からインスピレーションを貰ったと、日本に帰国してからはウェディングドレス専門のデザインをしている。

 物腰の柔らかい人で穏やかな話し方をする人という印象しかなくて、正直、再会するまで大学でサークルも一緒だったと言われても、名前も思い出さなかった。雅人の方から声を掛けられなければきっと、私は素通りしてしまったかもしれない。

 雑誌の撮影の仕事で、その時に再会して、それ以後もスタジオで何度か会う機会はあったけど、お互いに仕事で来ているので、いつか一緒に食事にでもと誘われたけど、それも社交辞令のようになっている。

 彼の作るドレスはどれも清楚でラインが綺麗な物が多い。好みもあるけど、今、私が知っているデザイナーの中では彼が一番いいと思う。ウェディングドレスでなければ、他にも色々な知り合いはいるし、時間があれば、フランスでもイタリアにでも依頼出来る。でも、篠崎さんの結婚式に間に合わせるのなら、期間は短い。それに依頼して受けて貰えるか分からない。

「ねえ、エマ。エマの知り合いでウェディングドレスを作ってくれるデザイナーとかいる?」

「ウェディングドレスなら、ディーがいいんじゃない?リズに頼んだら?」

「ディーさんが一か月くらいで作ってくれるかな?」

「それは絶対に無理。一か月ならウェディングドレス専門じゃないと厳しいわよ。専門だったら、生地もレースも在庫があるかもしれないし」
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