君をひたすら傷つけて
 マンションに帰ってきて、自分の部屋に入ると、フッと肩の力が抜ける。ビールの酔いは次第に醒めだしているけど、考えるのはお兄ちゃんのことだった。そろそろ本当にお兄ちゃんから卒業しないといけないのかもしれない。

 それは私のためではなく、お兄ちゃんのため。

 住むところも仕事も全部お兄ちゃんのお世話になっているこの生活は居心地が良すぎて、踏み出すのに勇気がいる。でも、居心地のいい、優しさに甘えるのも私から終わらせなければいけないのかもしれない。

 里桜ちゃんの結婚式が終ったら、私のこれからを考えようと思う。

 朝、目覚めるとお兄ちゃんは仕事が午後からだと言っていた通り、リビングでテレビを見ながら新聞を読んでいた。テーブルにはたくさんの書き込みがされたシステム手帳と、携帯が置いてある。

 マグカップに入っているコーヒーが湯気を出していた。

「おはよう」

「おはよう。今日はエマさんの事務所に行ってからか?」

「うん。イタリアのことをリズに色々と相談しないといけないの。リズはディーのコレクションがあるから、フランスなの。だから、残念ながら、イタリアでは私だけになる。リズがいてくれたら全く問題なかったけど、伝手も殆どないから、心配よ」

「雅が居れば大丈夫だよ。それと、近いうちに雅のドレスを買いに行かないか?」

「私のドレス??」

「ああ。里桜さんの結婚式に参列する時のドレスだよ」

「いいよ。ドレスなら、事務所にいくらでもあるし」

「俺が雅のドレスを選びたい」
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