君をひたすら傷つけて
 そんな話をしていると、里桜ちゃんと神崎くんがアトリエにやってきた。里桜ちゃんはともかく神崎くんは今からのことを何も知らない。

「ごめんな。迎えにいけなくて」

 そう言ったのは篠崎さんで、その言葉に里桜ちゃんはニッコリと微笑んだ。職場からそのまま連れてこられた里桜ちゃんはブラウスにスカートの極々シンプルな姿だった。清楚というよりは普通の女の子だ。でも、篠崎さんにとっては特別に可愛らしく見えるらしい。傍にいるだけで、甘いハートがあちらこちらに零れ落ちそうだった。

「神崎さんが迎えにきてくれたから大丈夫です」

「神崎もありがとう。助かったよ」

「俺はただ迎えに行っただけですから」

「神崎は今からどうする?」

 もう、決まっていることなのに、今、思いついたように言う。

「別に仕事はないから帰るだけですが」

 お兄ちゃんのことだから、この後が暇なのも確認済みだと思う。

「なら、バイトしないか?」

「バイト」

「ああ。今から里桜がドレスの試着をするから、それを全部撮って欲しい。俺はゆっくり見たいから」

 二人のやり取りを見ながら、篠崎さんは最初から神崎くんをカメラマンにするつもりだったのに、今、誘っている。神崎くんの性格を読み取った上での依頼だった。最初からカメラの撮影というと、時間外だからだとか天邪鬼なことを言いそうだった。

「でも、俺、高いですよ」

「構わないよ。里桜を綺麗に撮ってさえくれれば。バイト代+焼肉でどうだ?」

 カメラマンのバイトだけでもかなりの金額だろうに、その上に若い男の子には魅力的な焼肉のお誘い。篠崎さんの連れて行ってくれる焼肉は普通とは違うのをわかったようだった。
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