君をひたすら傷つけて
 ホテルは何度も名前を耳にしたことのあるもので、私は石造りの外観だけは知っているけど、その玄関さえ潜ったことはなかった。篠崎さんが里桜ちゃんのために用意したホテルは優雅だったし、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。歴史の多く残るイタリアで街のあちらこちらに遺跡や建造物がある。その中でも有名なこのホテルは16世紀からこの場所にあり、重厚な佇まいは人を圧倒する。

 重厚な外観の中は磨かれたシャンデリアの光が床の大理石に反射している。埃一つないような床は歩く度にコツコツと音を立てていた。そんな音を聞きながら前に進むと真っ白な壁には等間隔でブラケットランプが並んでいて、目の前の開けた空間の先にはフロントがあった。

「やっぱり素敵ね。では、里桜ちゃんとご両親はあちらで待っていてください。チェックインをしてきます」

「はい。あの、雅さん」

「何から何まですみません」

「気にしないで。すぐに終わるから」

 私は里桜ちゃんと里桜ちゃんの両親をロビーのソファに案内してからフロントに向かった。フロントで名前を言うと、すぐに手続きが始まった。名前を言って、目の前に出された紙に名前を書いていく。リザーブされたのは二部屋で、一つは里桜ちゃんのご両親。もう一つは里桜ちゃんと私の部屋だった。

 最初はシングルを二つのつもりだったけど、シングルなら、ご両親の部屋と離れてしまう。ツインルームを三部屋でもいいとか、里桜ちゃんのご両親の部屋にエキストラベッドを入れるというアイデアもあったけど、結局は私と里桜ちゃんは同室になった。

 私は書類に名前を書き込むとカードキーを渡され、部屋まで案内するとボーイが二人ついてきた。

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