君をひたすら傷つけて
「雅さんは投げないの?」

「私はいいかな」

 私は里桜ちゃんのようにコインを二枚投げたいと思う人が思い浮かばなかった。二枚のコインを投げて必死に篠崎君のことを思い願っている姿はとっても可愛くて羨ましいと思った。私の中でずっと一緒に居たいと思った人はもう居ない。分かっているけど、目の前の幸せが羨ましかった。

 それからも四人で観光をしていると、不意に里桜ちゃんのお父さんが言った。

「ここに篠崎くんがいたらもっと楽しかったな」

 里桜ちゃんのお父さんの言葉に、お母さんも頷いている。

「海斗さんは今日の夜があるから」

「そうだな。今日の夜が発表か。世界の映画祭の男優賞にノミネートされただけでも凄いと思うよ」

 ミラノ映画祭のテレビ中継は決まっていて、ホテルの部屋でその様子を見ることが出来ると思う。観光もだけど、里桜ちゃんにとってはミラノ映画祭の様子も気になるだろう。少し早めにホテルの部屋に戻った方がいいかもしれないと思った。

 観光が終わり、ホテルに戻るとかなりの時間が過ぎていた。ホテルに戻ってすぐに予約したレストランでの食事には時間があるので、お互いの部屋で時間を過ごすことになった。部屋に入ると、里桜ちゃんはソファにポフッと身体を預けた。

「雅さん。明日、筋肉痛になるかもしれないです」

「シャワーを浴びてから、筋肉痛にならないようにストレッチでもしましょ。それにシップも持ってきているから、レストランから戻ってから貼りましょ。それと、テレビを付けるわ。そろそろ映画祭が始まるわ。中継しているかも」

 
< 832 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop