君をひたすら傷つけて
 テレビを付けると、画面一面が深紅だった。レッドカーペットが映し出され、その両側には報道陣と関係者。俳優のファンと思われる人が溢れていた。そんな画面を見ているとお兄ちゃんから連絡が入った。

『天気が良くてよかった。雅は元気にしているか?俺は緊張している』

『緊張するのもいいと思う』


 私が送った報告のようなメールの返信についフッと顔が緩むのを感じた。あのお兄ちゃんが緊張しているなんて言ってくると思わなかった。


「里桜ちゃん。今日の食事は外のレストランの予定だけど、ホテルのレストランにしない?ホテルのレストランなら、映画祭の様子を最初から見ることが出来るわよ」

 里桜ちゃんはテレビのレッドカーペットに釘付けだった。その真摯な視線はきっと目の前で見たかったのではないかと思った。時計を見ると授賞式が始まるまでには時間があった。レッドカーペットを歩く篠崎さんを見ることは出来ないかもしれないけど、授賞式に参加する篠崎さんを見ることが出来るかもしれない。

「それとも今からミラノに行く?行きたいなら行ってくればいいわ。飛行機ならまだ間に合う。ご両親のことなら心配しないでいいわ。行きたいなら手配する。どうする?」

 里桜ちゃんは私の方をみて、酷く驚いた顔を向けた。

「でも……。行きたいです」

「分かった。私の方で手配するから、ご両親に今からミラノに行くことを説明してくれる?」

「はい」

 そう言った里桜ちゃんは部屋を出ていくのを見ながら私はフロントに連絡した。運よくミラノへの飛行機のチケットは取れた。そして、私はメールではなくお兄ちゃんに直接電話した。今、映画祭が始まろうとしているところに電話をして、取ってくれるか分からないけど、連絡がつかなかったら、里桜ちゃんをミラノまで送って、折り返してくるつもりだった。
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