君をひたすら傷つけて
「雅さんが送ってくれるのですか?」

「ええそうよ。急いで準備して。タクシーで空港まで行って、飛行機でミラノまで。空港の迎えと一緒に映画祭の会場に行って、篠崎さんの姿を目に焼き付けてきて」

 里桜ちゃんはホッとしたように微笑んだ。考えてみたら、フランスにずっと住んでいた私と里桜ちゃんは違う。簡単にミラノにって言ってしまったけど、里桜ちゃんにとって、見知らぬイタリアを一人で移動するなんて、無茶なことを言ったのかもしれないと思った。

 でも、お兄ちゃんと連絡がついた今、何も心配することはない。私が空港に里桜ちゃんを送り、搭乗させれば、後はお兄ちゃんが何とかしてくれる。

「ありがとうございます」

「さ、急ぎましょ。荷物は最小限で」

「でも、着替えとか」

「足りないものはミラノで買えるから大丈夫」

 それから怒涛の準備が始まった。里桜ちゃんは最小限の荷物での移動だけど、今日はきっと戻ってこれないだろう。必要なものは篠崎さんが揃えるだろうし、下手に荷物を持たせると、時間も掛かる。たった一時間のフライトだけど、少しでも時間のロスは避けたかった。

 里桜ちゃんはバッグの中にパスポートとお財布。そして、今日必要な着替えだけを入れた。

 それから、里桜ちゃんのご両親にレストランの予約の時間だけを伝えると、私は里桜ちゃんと一緒にタクシーに乗り込み、空港に向かった。不安そうな里桜ちゃんの気持ちを和らげてあげたいと思ったけど、そんな時間もなく、連絡だけを伝えるしか出来なかった。

 ミラノの空港には迎えが来る。
 里桜ちゃんがホテルに残した荷物はフィレンツェの教会まで運ぶ。
 ミラノに着いて、迎えの人に会ったら、必ず連絡して欲しい。

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