君をひたすら傷つけて
 空港に着いたのはそれからすぐだったけど、離陸までそんなに時間がなかった。急いで搭乗手続きを終わらせると、里桜ちゃんが搭乗口に送った。本当に嬉しそうな表情を浮かべる里桜ちゃんを見ていると、ミラノへ行く手伝いが出来たことが嬉しかった。ミラノに行けばお兄ちゃんがどうにかしてくれる。


「ありがとうございます。お父さんたちのことよろしくお願いします」

「大丈夫。里桜ちゃんの分も甘えるから」

「行ってきます」

「じゃ、今度はフィレンツェの教会で会いましょ」

 軽く頭を下げてから、早足で搭乗口を潜っていく里桜ちゃんの後姿を見ながら、私はホッとして、お兄ちゃんに連絡した。

『今、里桜ちゃんが飛行機に搭乗したわ』

『わかった。空港には橘聖が迎えに行ったから大丈夫』

『それなら安心ね。じゃ、フィレンツェの教会で』

『雅。色々ありがとう』

『いいのよ。私がしたくてしているのだから』

 映画祭だから映画監督である橘聖がミラノに居ても可笑しくない。でも、あの橘聖なら里桜ちゃんのことを任せても安心だろう。携帯をバッグにいれると少しだけ肩の荷が下りた気がした。空港のソファで座って少しゆっくりしてから戻ろうと思った。

 里桜ちゃんのご両親は丁度今頃、ホテルでディナーを楽しんでいるだろう。今から急いで戻って、二人の邪魔をするくらいなら、サンドイッチとコーヒーでも十分に楽しめる。空港で買って帰るか、ホテルで買うか。そんなことを考えながら歩きだした。

 搭乗口からソファに移動しようとしていた時に、急に後ろから腕を取られた。こんな場所で腕を取られる人なんか私には居ない。新手のナンパかと思って、振り払おうとすると、視線を上げると、そこには息を切らせたスーツ姿の長身の男の人が居た。

 アルベール・シュヴァリエ。

 私が愛した人だった。

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